「何もない」駅舎を改修し、新しいまちづくりの起爆剤へ
宮崎市内から車で1時間ほどにある海辺のまち、高鍋町。まちの玄関口のひとつであるJR高鍋駅とその周辺を改修・整備することで、新しい賑わい拠点の創出に取り組んでいます。これまで「何もなかった」という駅周辺を活性化して、将来的には移住・定住の促進や観光振興にもつなげたいといいます。いま、町を挙げて取り組んでいるプロジェクトへの思いを、高鍋町地域政策課の金城さんと野村さんにお聞きしました。
暮らすには「ちょうどいい」宮崎でいちばん小さな町
高鍋町は人口2万人足らずの海辺の町です。宮崎県の海沿いのほぼ真ん中に位置しており、豊かな自然や長い歴史に育まれた史跡や文化遺産をもつ「歴史と文教の城下町」です。宮崎県の自治体のなかでは一番面積が小さく、田舎すぎず都会すぎず、生活するには「ちょうどいい」町です。町の海岸線をJR日豊線が、やや内陸寄りに国道10号線が走り、さらに内陸側に町の中心地が広がっています。
中心市街地周辺は高鍋藩三万石の城下町として発展した歴史があり、現在も地名などに当時の名残が見られます。コンパクトな町並みに行政や教育、商業などの施設が集中し、西都・児湯地区の中心地として栄えています。中心市街地から今回整備を進めているJR高鍋駅までは2~3kmほどの距離があり、駅周辺地域は町内でも過疎化が進んだ地域として課題を抱えています。
何もない駅を改修し、便利で使いやすい駅舎に
現在、町が取り組んでいる「高鍋駅交流拠点施設整備プロジェクト」は、町の玄関口のひとつであるJR高鍋駅を整備するというもの。「2015年に行った町内アンケートでは、何もない駅舎に売店や飲食スペースがほしいという声が上がりました。2018年には駅の利用促進イベントを開き、そこで聞かれたリクエストをベースに駅の改修が行われています」と野村さんは話します。駅舎内にはきっぷ売り場のほか、快適な待合室や学生が勉強できる学習コーナー、飲食物を販売する自販機コーナーなどが設置され、駅舎外には芝生のコミュニティエリアが整備されます。
高鍋町は、2020年に高鍋駅を九州旅客鉄道株式会社から有償譲渡を受け、2024年から改修工事がスタート。2025年3月には工事が完了し、新しい町の玄関口として活用されることになります。
町の将来を左右する重要プロジェクトとして位置づけ
今回の駅舎改修にあたっては、単に利用者の利便性を高めるだけではなく、さらなる機能が加えられているとのこと。「駅舎内に観光案内所を設置し、観光情報の発信拠点としての役割をもたせます。また、多目的スペースやギャラリースペースを設けることで、通勤・通学利用者だけでなく買い物や観光に訪れる人たちの交流の場としても機能することを期待しています」と金城さん。中心市街地への周遊性を高め、新しい賑わい拠点になることを目指しているといい、町の将来を左右する重要なプロジェクトとして大きな期待が寄せられています。
駅は美しい海岸から徒歩圏にあり、海水浴場をはじめ海岸の活用にもつなげたいといいます。この施設を軸に町の魅力を高めることができれば、観光や移住・定住といった、町が長年取り組んでいる施策にも好影響を与えそうです。
新しいまちづくりの起爆剤として大きな期待
高鍋駅を整備するプロジェクトは、2024年度の改修工事完了をもっていったんの区切りを迎えます。しかし、本当の勝負はその先にあり、駅舎をどのように活用するかは2025年度以降の運営にかかっているといいます。「まずは多くの人に町のことを知っていただき、足を運んでいただくことから始めていきたい」と金城さんは話します。「2025年度以降、このプロジェクトは施設の活用にシフトしていきます。施設の維持管理費は継続的に必要になりますし、賑わい拠点の創出のためには、観光や移住・定住などの施策とも絡めたイベントの開催など、ソフト的な仕掛けも必要になります」と続けます。町が力を入れて取り組む重要施策のひとつとはいえ、限られた予算ではできることにも限界があるといいます。「皆様からの支援をいただくことで、できることも増えてくると考えています」
全ての人が安心して使える施設を目指して
一方で「駅舎とその周辺の整備はひととおりの目処がついたものの、課題は残ったまま」と野村さんは指摘します。「現状では、ホームに行くには跨線橋を渡るしかなく、誰もが安心して使える施設とはいえません。駅全体のバリアフリー化には莫大な予算が必要ですが、全ての人が安全に使える施設を目指す以上、なんとしても実現させたい」と続けます。
当初は、高鍋駅の利用者の声からスタートしたプロジェクトですが、いまでは町の将来をも左右する重要プロジェクトへと変わってきています。「高鍋町はほかの多くの自治体同様、様々な課題を抱えています。このプロジェクトは、観光振興や移住・定住促進などと連携することで喫緊の課題である人口減少に歯止めをかけられるかもしれません」と金城さん。「宮崎県でいちばん小さな町、高鍋町が全力で取り組んでいるプロジェクトです。町にゆかりのある人たちはもちろん、この小さな町の取り組みに少しでも興味をもっていただけたならぜひ力を貸していただきたい。これからの高鍋町を一緒に盛り上げていただければ」と金城さんは結びました。
語り手
高鍋町地域政策課
金城さんと野村さん
自治体 |
宮崎県 高鍋町 |
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